先週末は非常に充実した一日を過ごしました。午前中は紅茶キノコ(コンブチャ)の開発者であるK先輩と名古屋でお話をする機会があり、午後からは名古屋の松坂屋百貨店で開催された奥村先生の紅茶教室に参加してきました。少人数制の贅沢なセミナーで、紅茶と日本茶の鑑定について深い知見を得られましたので、その学びを共有させていただきたいと思います。
伝統が育む味覚 - インドと日本の茶文化
特に印象的だったのは、インドの紅茶鑑定士についてのお話でした。インドでは紅茶鑑定士という職業が非常に高い社会的地位を持ち、ほぼ世襲制で受け継がれているようです。鑑定士になる子どもたちは、幼い頃から繊細な味覚を育てるため、濃い味や強い香りの飲食を控えめにして育てられるとのこと。私にはこれが、職人の技を代々受け継ぐ日本の伝統芸能のように感じられました。私も自分の子どもが小さきときには、薄めたお茶から淹れたのを思い出しました。
茶の審査基準と評価方法
日本茶の品評会では、農林水産大臣賞などが出される際、外観、香気、水色、滋味という項目で官能検査による審査が行われるそうです。抹茶の場合はこれに殻色も加わります。
面白いことに、紅茶の審査でも同様の項目が用いられるそうです。歴史的に考えると紅茶の審査基準を日本茶の評価システムが参考にしたのではないでしょうか。近年和紅茶の生産が増加して審査方法について気になりましたが、たぶん茶審査の歴史において紅茶が先輩なのだろうなと思いました。
グローバル市場を見据えた製造戦略
紅茶製造のお話で、特に印象に残ったのは某大手紅茶メーカー某社の市場戦略についてでした。奥村先生がおっしゃるには、同社の紅茶を毎年仕入れることで、その年の紅茶市場の傾向が分かるとのこと。というのも、この会社は世界のどの市場が最も購買力があるかを分析し、その市場に合わせた紅茶を製造しているからだそうです。私には、これがかつて東インド会社を通じて世界経済を動かした英国の影響を受けたインドならではのアプローチのように思え、「ボストン茶会事件」という言葉が思い浮かびちょっとワクワクしました。
価値基準における文化的差異
日本茶と紅茶では、価値の判断基準に興味深い違いがあるように感じました。日本茶の場合、1番茶の中でも、早い時期に収穫されたお茶により高い価値が置かれる傾向があります。一方、紅茶では1番茶(ファーストフラッシュ)であっても、適度な香気が備わった時期のものが好まれるとのこと。この違いは、私たち日本人特有の「初物」重視の文化が影響しているのかもしれません。純粋な品質評価に加えて、旬や希少性に特別な価値を見出す傾向が私たち日本人にはあるように思います。
伝統と科学の融合
現在の茶の鑑定は、紅茶も日本茶も主に官能検査に依存しているようですが、科学的評価方法の重要性も増してきていると、奥村先生とお話になりました。「しかし、熟練の鑑定士が持つ感性は時として機械分析をも超えるような精度を持っているので、それはそれで重要ですよね」と。これは、下町の金属加工の技術者さんでないとNASAの要求する精度の部品をつくれないというような人間の不思議な能力と通じるものがあるのではないでしょうか。
私たち磯田園でも、従来の官能検査に加えて、近赤外線分析器による成分分析を導入してみました。また、大学の先生との連携でガスクロマトグラフィーを用いた香気成分の分析や、色差計による色彩の数値化なども試みています。
この度の紅茶セミナーを通じて、茶の鑑定には伝統的な技術と現代科学の両方が大切なのだと改めて感じました。今後、世界の人々にお茶の素晴らしさを伝えていくにあたって、この両者のバランスが重要になってくるのではないでしょうか。伝統の味わいと科学的な裏付け、この両輪があってこそ、より多くの人々に日本のお茶の魅力を伝えることができるのかもしれません。